フジコ・ヘミング氏のピアノの音色は、「ほかのピアニストと何がどう違うのか」と考えたことはありますか?
この記事では、フジコ・ヘミング氏のピアノに寄せる思いに焦点を当て、氏の音楽を考えてみます。
そうすることで、氏が何故に「魂のピアニスト」と呼ばれているのかを明らかにできるだろうと考えたからです。
この記事では、氏と他のピアニストの「ラ・カンパネラ」演奏を聴き比べ、その解釈の違いを明らかにしつつ、氏の音楽に対する考え方をあぶりだしてみます。
この記事を読み終えると、フジコ・ヘミング氏の音楽への向き合い方のみならず、人生のとらえ方までもがご理解いただけるでしょう。
コンサートチケットが手に入らない!フジコ・ヘミング略歴
1932年 ベルリン生まれ
本名:イングリッド・フジコ・ゲオルギー・ヘミング
父:ジョスタ・ゲオルギー・ヘミング スウェーデン人 画家・建築家
母:大月投網子 日本人 ピアニスト
1937年 帰国 ピアノを始める
1948年 右耳聴力失聴
1953年 第22回NHK毎日コンクール入選 東京芸大在学中
1961年 現ベルリン芸術大学留学
1969年 左耳聴力失聴
現在 左耳のみ40%聴力回復
1995年 母逝去 帰国
1999年 NHKドキュメンタリー番組放送
デビューCD 「奇跡のカンパネラ」
2018年 ドキュメンタリー映画「フジコ・ヘミングの時間」
「ラ・カンパネラ」 ピアニスト別 演奏時間比較一覧
※複数回演奏者は、演奏時間の長い方を採用しました。
3:53 ガヴリーロフ
3:59 ブニアティシュヴィリ
4:00 キーシン
4:04 シフラ
4:06 ラン・ラン
4:19 リシッツァ
4:21 アブドゥライモフ
4:22 ワッツ
4:24 ユンディ・リ
4:26 シシキン
4:27 グロー
4:31 ゲキチ
4:37 辻井
4:43 トリフォノフ
4:46 チョ・ソンジン
4:50 チャン・ハオチェン
4:51 ライト
6:18 フジコ・ヘミング
フジコ・ヘミングの「ラ・カンパネラ」が低評価!?なぜ?
フジコ・ヘミングを一気にクラシック音楽界のスターダムに押し上げた演奏が「ラ・カンパネラ」です。
クラシック業界で空前の大ヒットとなった「ラ・カンパネラ」ですが、世間一般の高評価とはうらはらに、音楽家・評論家のあいだからは、低評価があがっていました。
これほど評価が両極端に二分する演奏家もめずらしです。
その原因は、前述の『「ラ・カンパネラ」ピアニスト別 演奏時間比較一覧』からもうかがえます。
クラシック界では、まずは譜面通りの演奏が、高評価の第一条件。
『「ラ・カンパネラ」演奏時間比較一覧』を一見しただけで、氏の演奏時間が極端に長いことにだれもが気付かれるでしょう。
演奏家のほとんどが、4分台でおさまっているのに比して、氏だけが6分台を付けているのです。
玄人筋から高評価を受けるには、譜面通りの演奏が土台にあり、その土台の上に、演奏家独自の個性がプラスされるというのが、クラシック界の常識です。
フジコ・ヘミングの音楽観・世界観の源泉はどこに?
フジコ・ヘミングの音楽を支えるのは、クラシック界の評価基準に拘泥しない、氏独自の音楽観・世界観です。
その源泉はどこにあるのでしょうか。
氏は、一時両耳の聴力を完全に失っています。
現在も回復しているのは左耳が40%ほどです。
音楽家が無音の世界に追いやられる、そんな過酷な経験が、氏の音楽観・世界観を決定づけていることは、想像に難くありません。
ひとつひとつの音に、色を付けるように弾くからさあ!

”(若い時より)今の方がいいわよ。ずっとね。”
”若い時って、何にもわんないで弾いてるからさあ”
”私の場合は、ひとつひとつの音に、色を付けるように弾くからさあ”
フジコ・ヘミングのまとめ
・80歳を過ぎても、現役ピアニストである。
・60歳を過ぎてから、認められる。
・現在でも、右耳聴力なし、左耳聴力40%である。
・”ひとつひとつの音に、色を付けるように弾く”
独特の音色を持ったピアニストです。
フジコ・ヘミングは、技術で弾くピアニストではなく、まさに魂で弾くピアニストであるといえるでしょう。